「漂流郵便局」

読売新聞夕刊に、密着ドキュメント「漂流郵便局」が連載されています。

5月28日から始まり、昨日(6月Ⅰ日)までに5回掲載され、まだ続くようです。

「漂流郵便局」は香川県の粟島にあり、元郵便局長の方がボランティアで局長を務めています。

瀬戸内海の島々を舞台に3年に1度、開催される「瀬戸内国際芸術祭」の2013年秋の出品作で、旧粟島郵便局を改装して造られたものです。 現代美術家の久保田沙耶さん(30)が、東京芸大の大学院生だった2013年に考えたアートで、瀬戸内国際芸術祭の作品として作り、芸術祭後も手紙が送られてくるので以来、そのまま置かれているそうです。

「届けられない手紙」を預かる郵便局です。過去・現在・未来、もの・ひと・こと、すべての手紙を受け付けています。

開局して5年、3万通の手紙が届き、現在も月に数百通が届いています。 ただ送るだけで、返事はきません。行って、自由に読むことが出来ます。手紙が自分あてだと感じれば、持ち帰ってもよいそうです。

『あの世に単身赴任中のあなた、そちらはいかが?私はとても寂しいです』や『一番の友達のKちゃんがクラスの中でいじめられた。自分もいじめられるのが怖くて、友達でいるのをやめました。私はKちゃんが好きだったのに…。謝らせてください。今、幸せに暮らしていることを祈っています。』等。

行き場のない悲しみやつらさを書くことで、気持ちの整理をしているのだと思います。

これまで生きてきた中で、さまざまな出会いと出来事を人は、経験しています。振り返れば、『あの時、なぜあんなことをしたのだろう』、『あの時、なぜあんなことを言ったのだろう』ということは、誰にもあることだと思います。

しかしどんなに反省しても、時は戻りません。

私も多くの人を傷つけ、そして傷つけられてきました。

 

生きるという事は、そういう事だとも思います。

それでも尚、「あの時、ひと声かけられなかったのか」、「話を聞かなかったのか」、「行動しなかったのか」と悔やまれることがあります。

「漂流郵便局」は、人が持つ、忘れることが出来ない「感情」や「気持ち」の存在を改めて思い起こさせます。自らが、「過去」・「現在」・「未来」へ行き、関わりのあった「もの」・「ひと」・「こと」について思いを伝える所です。

自らが参加し、向き合い、癒される。そんなアートを考え、創りだした若き芸術家に新たな時代を感じます。

 

*久保田 沙耶(くぼたさや) 1987年、茨城県生まれ、幼少期を香港で過ごす。筑波大学芸術専門学群卒業。東京芸術大学大学院美術研究科卒業。ロンドン留学(2015年)。