日本酒を製造している「酒蔵」が減り続けています。日本酒の消費量が減り続けているので、当然といえば当然の結果ですが。
私が新入社員として働き始めたのは昭和45年です。まだその頃は、日本酒が相当飲まれており、宴会でも最初にビールで乾杯した後は日本酒でした。 宴もたけなわの頃には、お銚子が転がっていました。
二次会は大衆キャバレーで、「一人3000円!5000円!」と叫び、ぞろぞろと入って行きました。二次会の費用は、いつも部長持ちでした。
高度成長が続き、ウイスキーの水割りやオンザロック、そしてワイン、スパークリングワイン、焼酎を飲む時代になっていきました。
何時の頃からか、店(各部)や営業本部でバスを連ねて行く社員旅行(大宴会)はなくなり、それそれの部署(室・課)でボジョレーヌーボを飲む会等に変わりました。 旅館や寿司屋の宴会場から、ホテルやフレンチレストラン、イタメシ屋へと場所も移りました。全社を挙げての「大運動会」もなくなりました。
『大切な時間とお金を使い、時間外に上司の面倒まで見るのだから当然。』と、女子社員が行きたい、食べたいところが中心になりました。 彼女らが選ぶホテルや人気のレストランは、確かに新鮮で、時代を反映している様に感じました。 宴会の主導権は、完全に男から女に変わったと思いました。
戦前の昭和15年、全国に7,000あった酒蔵ですが戦時中には統廃合されて3,160に。戦後のピークは4,021蔵(昭和30年)で、製造量は昭和48年の971万石が最大でした。
その後、蔵・量とも年々減り続けています。【*1石は180リットル、一升瓶で100本分です。1,000石で10万本、1万石では100万本です。】
平成27年(2015年)には1,500蔵です。酒造免許を保有していても、実際に酒をつくっているのは1,150位です。 製造量も、平成22年(2010年)で340万石と、ピーク時の3分の1近くに落ちました。日本酒離れが進んでいます。
なぜこれ程までに、「日本酒離れ」「日本酒嫌い」が増えてしまったのでしょうか。原因は 3つあると思います。
一つは、「三増酒」時代が続いたこと。 二つは、「食生活」の変化 。三つは、「アルコール離れ」の結果だと思います。
「三増酒」は戦時中から、平成18年(2006年)に酒税法が改正されるまで造られました。 『兵隊さん』が食べるお米が最優先の時代。少ないお米で造ったお酒の量を、3倍まで水増しすることが認められました。ブドウ糖・グルタミン酸ソーダ・乳酸等、「糖類」と「化学調味料」そして「アルコール」を添加し、2倍、3倍に水増ししたお酒です。
戦前・戦後の食糧難の時代は分かりますが、世界第2位の経済大国になっても造り続け販売をしていました。 日本酒を飲むと、「頭が痛くなる・翌日に残る」。「アルコール添加」といった悪いイメージが作られたと思います。 メーカーは儲かったと思いますが、日本酒のイメージは下がりました。
「食生活」の変化も大きいと思います。食事の洋風化です。米・野菜・魚を中心にした伝統的な和食から、高カロリー・高タンパクの食事へ急速に変化してゆきました。 ビールも辛いビール(アサヒのスーパードライ等)が好まれ、ウイスキーやワインの消費が拡大しました。「食生活」の変化は酒に対する「嗜好」も変えたと思います。
そして特に、若い世代の「アルコール離れ」があると思います。それは、嗜好と価値観の変化から来ています。 世の中や自分の将来を冷静に考え、堅実な生活を送る方が増えてきました。他人との付き合い方も変わっています。 世界は狭くなり、いろいろな刺激と楽しみを選べる時代です。『自分の趣味や楽しみにお金を使いたい』と考え、「酒を飲む楽しみ」の比重は低くなったようです。また、私たち団塊の世代を含め諸先輩たちの、「酔っぱらう姿・振る舞い」がダサいと映っていたように思います。
古くから世界中に「お酒」があります。それぞれの民族は、その土地で採れたものを使って「酒」をつくりました。大麦の取れるところでは「ビール」、ブドウの出来る所は「ワイン」、日本ではお米を使って「日本酒」。どの民族も、最も気候・風土に合った酒を造ってきました。寒い地域では、大麦・小麦・ライムギ・じゃがいも等で「ウオッカ」。「テキィーラ」は竜舌蘭(サボテンではありません)です。酒と神との関係、酒づくり、楽しみ方等、それぞれの民族・地域の文化だと言えます。
「日本酒」づくりは、複雑で手間がかかる繊細な仕事です。使う原料米や仕込の時期が同じでも、その年によって品質・味が違い、気候も違います。精米歩合、白米の吸水量、使用する水・麹、しぼり等により違ったものになります。
「日本酒」の市場は、成熟し寡占化された市場です。この先、消費量と蔵元がどこまで減るのか分かりませんが、「日本酒」に対する国内での「見直し」と海外での「評価」が急速に高まっています。
今なお頑張っている蔵元にお願いしたい。こだわり(独自性)を持った酒を柱に、少量多品種の商品を開発し、世界を相手に美味しい「日本酒」を造り続けて頂きたい。
酒づくりは、日本文化の魅力の一つだと思います。