花盗人(はなぬすびと)

「花どろぼうに罪はない」と言いますが、以前から花が消える度に「そうかなぁー」と思っていました。

一日の朝、私の住むマンションの間を通っている緑道に植えた花が消えていました。同じ場所で4回目です。夏に植えた花が消え、代わりの花もすぐに無くなり、そして9月初めにはふた回り程大きくなって見事に咲いていた花が持ち去られました。

パソコンで「花盗人(はなぬすびと)」と検索すると、狂言の曲目にありました。物語りは、桜の枝を盗み折ったとして捕らえられ、桜の幹に縛りつけられた男が「この春は花の下にて縄つきぬ烏帽子桜と人やいうらん」という歌をよんで許される。というものです。

風雅さに心を動かされた屋敷の主人は、男を許し酒をふるまい謡や舞の宴となり、二人で桜を愛でて盗人に桜の枝を与えたそうです。

納得しました。「余りの美しさに一枝持ちかえる」という、人としての自然な感情からの行動に対し罪はない、としたものです。根から掘り起こして持ち去るのとは違うと思います。

高額な花ではありませんが、お店で選び植えた花です。肥料を入れ、時々水やりをし、やっと根づいた花です。何よりも通る人達が美しい花にホッとし、愛でているものです。

時々家で「この間植えた花がまた無くなった」というと、立て札で注意した方が良いのでは、「お花を持って行かないでください」「見ています!」「大変なことになります」等の言葉はどうかと言われます。しまいには、「植えなければいい。嫌な思いをしなくて済む」とも。

この3年間。上手く育たず、植え替え、補植を繰り返してきました。犬にも花を蹴散らされました。枯れた花を抜き、持ち去られた後に何度も植えてきました。

「がっかり」することもありますが、マンションの住民やご近所の皆さんが助けてくれます。「これを植えてみたら」といろいろな草花を自宅や畑から持って来られます。有難いことです。

植え替えや水やりをしている時、犬の散歩や買い物などで緑道を利用している方に「お疲れ様」と声を掛けて頂くこともあります。元気が出ます。

今年に入り 、昔とは違う「花盗人(はなぬすびと)」が多くなった思います。長引くコロナ禍でストレスも増え、職場や家庭での居場所や役割を失った人なのか、認知症の方なのか、それとも世の中の全てが面白くない人なのか分かりません。

もし、花を持ち去る人に出会ったら聞いてみたいと思います。

「そのお花をどうされますか。お花があると幸せですか。何かお困りごとはありませんか」と。